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静岡地方裁判所 平成5年(行ウ)2号 判決

静岡県浜松市大蒲町一一六番地の二

原告

竹内勝治

右訴訟代理人弁護士

黒木辰芳

右訴訟復代理人弁護士

秋山和幸

同市北寺島町六一七番地

被告

浜松東税務署長 岩崎武男

右指定代理人

齋木敏文

佐藤謙一

藤井弘之

森健

野村藤守

松井運仁

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告の昭和六三年分の所得税確定申告について、平成三年七月二六日付でした更正処分のうち、分離長期譲渡所得金額一億〇三四一万四四〇三円、納付すべき税額二四三一万〇四〇〇円とした部分の全部並びに過少申告加算税(納付すべき税額二六二万四〇〇〇円)及び重加算税(納付すべき税額二三二万四〇〇〇円)の各賦課決定をいずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和六三年分(以下「係争年分」という。)の所得税について、別表確定申告欄のとおり記載した確定申告書(青色)を法定申告期限までに被告に提出した。

2  被告は、平成三年七月二六日付で、同別表更正・決定欄のとおり、1で申告した所得金額及び納税金額に加えて、分離長期譲渡所得金額一億〇三四一万四四〇三円、納付すべき税額二四二四万四七〇〇円と更正し、さらに過少申告加算税(納付すべき税額二六二万四〇〇〇円)及び重加算税(納付すべき税額二三二万四〇〇〇円)の各賦課決定をした(以下「本件各処分」という。)。

3  原告は、これらの処分を不服として同年九月二五日に被告に対して異議の申立てをしたが、同年一二月二七日付でいずれも異議申立てを棄却する旨の決定がされ、さらに国税不服審判所長に対し、平成四年一月二四日、審査請求の申立てをしたが、平成五年一月二五日付で審査請求を棄却する旨の裁決がされた。

4  原告の係争年分の分離長期譲渡所得金額は、確定申告のとおり〇円であり、本件各処分は違法である。

よって、本件各処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の事実は認める。

三  抗弁(本件更正処分の適法性)

原告の昭和六三年分(以下「本件係争年分」という。)の課税所得金額及び納付すべき税額は、次のとおりであるから、その範囲内でなされた本件更正処分は適法である。

1  所得金額

(一) 総所得金額 三六二万九六八五円

右金額は、事業所得の金額一四五万八八五〇円、不動産所得の金額四九万四〇二一円、配当所得の金額九八万八九五六円及び雑所得の金額六八万七八五八円の合計額であり、原告が確定申告書に記載した金額と同額である。

(二) 分離長期譲渡所得の金額 一億〇四五四万七六七八円

(1) 原告の所有土地建物の売却

(a) 原告は、浜松市千歳町字伝馬町一二八番の宅地六七・〇三平方メートル(以下「本件土地」という。)及びその地上に左記の建物(以下「本件建物」という。)を所有していた。

所在 浜松市千歳町字伝馬町一二八番地

家屋番号 一二八番

構造種類 鉄骨造陸屋根五階建店舗・共同住宅

床面積 一階 五四・〇五平方メートル

二階 五四・五九平方メートル

三階 五四・五九平方メートル

四階 五四・五九平方メートル

五階 六・三五平方メートル

(b) 原告は、昭和六三年三月二三日、河村ビル株式会社(以下「河村ビル」という。)に対し、本件土地建物を一億一五〇〇万円で売り渡す旨の不動産売買契約を締結し、同日、河村ビルから手付金一〇〇〇万円を受領した。

原告は、同年四月五日に、本件土地建物に係る売買残代金一億〇五〇〇万円を受領するとともに、本件土地建物を河村ビルに引き渡し、河村ビルは、同日、本件土地建物の所有権移転登記手続を了した。

(2) 分離長期譲渡所得への該当性

原告は、遅くとも昭和三七年五月一〇日に本件土地を、遅くとも昭和四八年七月二八日に本件建物を、それぞれ取得したものであるから、本件土地建物を譲渡した日の属する年(昭和六三年)の一月一日現在における原告の本件土地建物の所有期間は、本件土地については五年を、本件建物については一〇年をそれぞれ超えるものである。

したがって、本件土地建物の譲渡による所得は、租税特別措置法(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三一条(長期譲渡所得の課税の特例)二項に規定するいわゆる分離長期譲渡所得である。

原告の昭和六三年分の分離長期譲渡所得の金額は、左記(a)の金額から(b)及び(c)の金額を控除した金額である。

(a) 分離長期譲渡に係る総収入金額 一億一五〇〇万円

前記(1)(b)の本件土地建物の売却により原告が取得した代金額である。

(b) 取得費 七七五万二三二二円

取得費の額は、次の〈1〉及び〈2〉の合計金額である。

〈1〉 本件土地の取得費 三〇〇万円

原告が「譲渡所得などの明細書(兼譲渡所得計算明細書)」(以下「譲渡所得明細書」という。)に記載した金額と同額である。

〈2〉 本件建物の取得費 四七五万二三二二円

本件建物の取得費の額は、建物四二六万七五四五円及び建物附属設備四八万四七七七円の合計額四七五万二三二二円である。

(c) 譲渡に要した費用 二七〇万円

原告が譲渡所得明細書に記載した金額と同額である。

2  課税所得金額

(一) 課税総所得金額 二二〇万四〇〇〇円

(1) 右金額は、前記一1の総所得金額三六二万九六八五円から、次の所得控除額を控除した金額である(国税通則法(以下「通則法」という。)一一八条一項の規定により一〇〇〇円未満切捨て。以下同じ。)。

(2) 所得控除額 一四二万五五七〇円

右金額は、社会保険料控除額三七万〇五七〇円、生命保険料控除額五万円、損害保険料控除額一万五〇〇〇円、配偶者控除額三三万円、扶養控除額三三万円及び基礎控除額三三万円の合計額である。ちなみに、原告の合計所得金額(前記1の(一)と(二)の合計金額)は八〇〇万円を超過しているので、配偶者特別控除の適用はない(所得税法八三条の二・昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)。

(二) 課税長期譲渡所得金額 一億〇三五四万七〇〇〇円

右金額は、前記1(二)の分離長期譲渡所得の金額一億〇四五四万七六七八円から長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円(措置法三一条四項)を控除した金額である(一〇〇〇円未満切捨て)。

3  納付すべき税額 二四二八万四三〇〇円

右金額は、次の(一)及び(二)の合計額から配当控除四万九四四七円(所得税法九二条一項)を控除し、さらに源泉徴収税額一七万〇七七六円を控除した金額である(通則法一一九条一項の規定により一〇〇円未満を切捨てた額)。

(一) 課税総所得金額に対する所得税の額 二二万〇四〇〇円

右金額は、前記2(一)の金額に所得税法八九条一項(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)に基づき計算した金額である。

(二) 課税長期譲渡所得金額に対する所得税の額 二四二八万四二〇〇円

右金額は、前記2(二)の金額に措置法三一条一項(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)に基づき計算した金額である。

4  本件賦課決定の適法性

(一) 重加算税について

本件更正処分は適法であり、かつ、原告は、本件土地建物の譲渡価額は一億一五〇〇万円である(前記1(二)(1)(b))にもかかわらず、その譲渡価額を九〇〇〇万円とした虚偽の売買契約書を作成し、確定申告においても右譲渡価額を前提に譲渡所得の金額を過少に申告した。

したがって、原告の行為は、通則法六八条一項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するから、同項の規定に基づいてされた重加算税の賦課決定は適法である。

(二) 過少申告加算税について

同様に本件更正処分は適法であり、更正により納付すべき税額の基礎となった事実のうち、重加算税の賦課決定の基礎とされた事実以外の事実が、更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条一項及び二項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定も適法である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(一)の事実並びに同(二)の事実中、原告は、昭和六三年三月二三日、河村ビルに対し、本件土地建物を譲渡し(代金額は否認する)、同日手付金として一〇〇〇万円を受領したこと、同年四月五日に引渡及び所有権移転登記手続を了したこと、同年一月一日現在における原告の本件土地建物の所有期間は、本件土地五年、本件建物は一〇年を超えるものであり、それにより生ずる所得はいわゆる分離長期譲渡所得に該当すること、本件土地建物の取得費が七七五万二三二二円であること、本件土地建物の譲渡に要した費用が二七〇万円であることの各事実は認め、その余の事実は否認する。

本件土地建物の譲渡代金額は、合計九〇〇〇万円であり、その旨の契約書がある。他方、本件土地建物の売買契約に際し、代金額を一億一五〇〇万円とする契約も存し、それに原告の署名押印があることは認めるが、これは河村ビル代表者河村裕治(以下「河村」という。)が銀行借入れを有利に進めるためと称してあらかじめ同人が用意していた契約書用紙に原告の署名押印を求めたものであり、真実の代金額を反映したものではない。

2  抗弁2については、同(一)の課税総所得金額は明らかには争わず、同(二)の課税長期譲渡所得金額については、本件土地建物の譲渡代金額が一億一五〇〇万円であることを前提とするものであるから争う。

3  抗弁3のうち、課税長期譲渡所得金額に対する所得税の額が二四二八万四二〇〇円となることについては、本件土地建物の譲渡代金額が一億一五〇〇万円であることを前提とするものであるから争う。

4  抗弁4は、同(一)の事実のうち、本件土地建物の譲渡価額が九〇〇〇万円として確定申告においてもこれを前提に譲渡所得の金額を申告した事実は認め、その余の主張については、本件土地建物の譲渡代金額が一億一五〇〇万円であることを前提とするものであるから争う。

五  再抗弁(抗弁1(二)につき所得税法六四条二項所定の保証債務の特例の適用)

1  原告は、本件土地建物の売却代金から次のとおり合計金八〇六〇万一五五二円を保証債務の履行ないしは法的にこれと同視されるべき行為のために出捐しているが、原告はいずれも主債務者に対して求償権を行使することができないから、右出捐額は、所得税法六四条二項所定の保証債務の特例(以下「本件特例」という。)の適用により、本件土地建物譲渡にかかる長期譲渡所得金額としては、所得がなかったものとみなされるべきである。

(一) ファーストクレジット株式会社に係る債務の弁済

原告は、本件土地建物の譲渡代金で、昭和六三年四月五日、竹内伸江を債務者とする債務及びその利息等の合計五八九〇万一五五二円をファーストクレジット株式会社(以下「ファーストクレジット」という。)に弁済した。右については、次の(1)ないし(4)の事実から所得税基本通達六四―五《借入金で保証債務を履行した後に資産の譲渡があった場合》に該当するので、本件特例が適用されるべきである。

(1) 原告は、昭和六〇年一二月一六日に平沼良樹(以下「平沼」という。)から本件土地建物を担保として四三〇〇万円を借り入れたが、この借入金(以下「旧債務」という。)は、当時原告が代表取締役であった株式会社さかえ(以下「さかえ」という。)の資金需要を満たすため同社に代わって原告が借り入れたものであり、この借入金を消費したのはさかえであり、原告は、単に形式上の債務者にすぎず、実質的には主たる債務者はさかえであって、原告はその保証人であったと評すべきである。

(2) その後、原告は、平沼に対する右債務を弁済するため昭和六一年五月二二日にファーストクレジットから本件土地建物を担保として原告の二女である竹内伸江名義で四八〇〇万円を借り入れ、この借入金(以下「新債務」という。)により右四三〇〇万円の旧債務及びその利息を弁済した。

新債務の借入名義人を竹内伸江としたのは、新債務の返済方法が二五年の長期分割払いであり、原告が高齢であることから原告名義では借入れができなかったためである(竹内伸江は当時学生で、原告が扶養していたから、同人が形式上の債務者であることは明らかである。)。

(3) 原告は、前記のとおり本件土地建物の売却代金をもって新債務を弁済した。

(4) さかえは、静岡地方裁判所浜松支部において昭和六二年三月二三日に破産宣告を受け、債権者に対する弁済能力もないので、原告の同社に対する保証債務の履行に伴う求償権の行使は不能である。

(二) 株式会社ユニエンタープライズに係る債務の弁済

原告は、本件土地建物の譲渡代金をもって、昭和六三年四月五日、株式会社ユニエンタープライズ(以下「ユニエンタープライズ」という。)に対し、主債務者をさかえとする借入金債務元利合計五八〇万円を弁済したが、これについても次のことから保証債務の履行に当たり、かつ、求償権の行使も不能であるので本件特例が適用されるべきである。

すなわち、原告は、昭和六一年四月二四日にさかえがユニエンタープライズから五〇〇万円を借り入れた際に、その連帯保証人として本件土地建物を担保とする根抵当権設定契約を締結した。

前記(一)(4)のとおり、さかえに対する求償権の行使は不能である。

(三) 有限会社ライフに係る債務の弁済

原告は、昭和六三年四月八日に有限会社ライフ(以下「ライフ」という。)に九〇万円を弁済したが、この債務は、有限会社サンライズ(以下「サンライズ」という。)が昭和五五年七月二五日に借り入れたもので、原告は、その債務について保証していた。同社は昭和六〇年夏ころ倒産したため、原告が本件土地建物の譲渡代金でその保証債務を履行したものである。右のとおりサンライズに対する求償権を行使することができないので、本件特例が適用されるべきである。

(四) 平沼に係る債務の弁済

原告が昭和六三年四月一一日に平沼に弁済した一五〇〇万円は、次のことから保証債務の履行に当たり、かつ、求償権の行使も不能であるので本件特例が適用されるべきである。

(1) 原告は、さかえの資金需要を満たすために同社に代わって昭和六一年一月一四日に平沼から一一〇〇万円を借り入れた。その借入金は全部直ちにさかえが費消したもので、原告は単に形式上の債務者にすぎず、実質的には主たる債務者はさかえであり、原告はその保証人であった。

(2) 原告は、本件土地建物の譲渡代金で、昭和六三年四月一一日右の債務及びその利息の合計一五〇〇万円を弁済したが、前記の(一)(4)とおり、さかえに対する求償権の行使は不能である。

2  原告は、確定申告に当たって、確定申告書に「所得税法六四条二項の適用を受ける」旨の記載をしなかったが、確定申告書に添付して提出された譲渡資産等の明細書の「売却された理由」欄には、「さかえの自己破産に伴い保証債務を負い担保に供していたため競売となり、その直前に売却したもの。売却代金は総て債務の履行に充当された」との記載がされており、同条項の適用を求めている趣旨は記載上明らかであるというべきであるから、手続的要件についても欠けるところはない。

六  再抗弁に対する認否

1  再抗弁1(実体的要件)について

(一) 同(一)の事実について

原告が、昭和六〇年一二月一六日に平沼から本件土地建物を担保として四三〇〇万円を借り入れたこと、その後、原告が昭和六一年五月二二日にファーストクレジットから本件土地建物を担保として原告の二女である竹内伸江名義で四八〇〇万円を借り入れたこと、新債務の借入名義人を竹内伸江としたのは、新債務の返済方法が二五年の長期分割払いであり、原告の高齢から原告名義では借入れができなかったためであること、竹内伸江は当時学生で、原告が扶養しており、同人があくまで形式上の債務者であること、原告が、昭和六三年四月五日、本件土地建物の売却代金をもって竹内伸江を債務者とする債務及びその利息等の合計五八九〇万一五五二円をファーストクレジットに弁済したこと、さかえが静岡地方裁判所浜松支部において昭和六二年三月二三日に破産宣告を受けたことの各事実は認め、その余の事実は不知。

本件特例に該当する旨の主張は争う。

昭和六三年四月五日の弁済が、原告が債務者である新債務に関するものであること及び旧債務も原告が債務者であることはいずれも原告の自認するとおりであり、費消したのはさかえであるとしても、そのことによって旧債務および新債務が保証債務となるいわれはない。よって、保証債務の存在を前提とする本件特例が適用される余地はない。

(二) 同(二)の事実について

原告がさかえのユニエンタープライズからの五〇〇万円の借入れに際し、その連帯保証人として本件土地建物を担保とする根抵当権設定契約を締結したこと(ただし、借入れ及び担保権設定の日は昭和六一年四月二四日ではなく、同年六月二四日である。)、原告が、本件土地建物の譲渡代金をもって、昭和六三年四月五日、ユニエンタープライズに対し右借入金元利合計五八〇万円を弁済したことは認めるが、本件特例に該当する旨の主張は争う。

すなわち、以下の事情に照らせば、昭和六一年六月二四日当時、さかえに弁済能力がないのは明らかであり、原告は、さかえが弁済能力がなく求償権が行使できないことを知りながら保証したものと認められ、原告の保証債務なるものは、実質的にこの債務の引受け、あるいは、さかえに対して無償で利益を付与したとみるべきであり、本件特例の適用はない。

(1) 原告は、昭和六〇年八月二〇日にさかえの代表取締役になっており、同社の事業内容及び負債の状況を十分認識する立場にあった。

(2) さかえは、昭和五九年五月期事業年度(昭和五八年六月一日から昭和五九年五月三一日までの事業年度)以降昭和六一年五月期事業年度まで毎期、多額の欠損金をかかえ債務超過の状態であった。特に昭和六一年五月期事業年度においては、売上金額が前事業年度より大幅に激減しており、資産八二八四万一七八四円に対して負債一億三四九一万二三七二円であり、債務超過額は五二〇七万〇五八八円となっていた。

(3) さかえは、昭和六二年三月二三日の破産宣告を受けた年分を含む昭和六二年五月期事業年度は無申告である。

(三) 同(三)の事実について

サンライズが昭和五五年七月二五日にライフから借入れを行ったこと、原告が昭和六三年四月八日にライフに右借入れに係る弁済として九〇万円を支払ったことは認め、原告がサンライズの右債務について保証していたこと及び右弁済が保証債務の履行であることについては否認し、その余の事実は不知。

右債務は、原告が代表取締役となっていたサンライズを債務者として、ライフから、昭和五五年七月二五日に一〇〇万円を借り入れたものであり、原告が債務を保証した事実はない。

(四) 同(四)の事実について

原告が昭和六一年一月一四日に平沼から一一〇〇万円を借り入れたこと、原告が本件土地建物の譲渡代金で、昭和六三年四月一一日右の債務及びその利息の合計一五〇〇万円を弁済したことは認め、さかえが右借入れにおける主債務者であることは否認し、その余の事実は不知。

この債務は、原告の主張するところによっても、原告が昭和六一年一月一四日に、平沼から自ら債務者として一一〇〇万円を借り入れたものであって、借入金をさかえが費消したとしても、そのことにより直ちに原告が保証人となるいわれはない。よって、右弁済は原告自らの債務の弁済であり、保証債務の存在を要件とする本件特例の適用の余地はない。

2  同2(手続的要件)について

確定申告書に原告主張の記載があることは認めるが、これにより所得税法六四条二項に規定する本件特例の適用についての手続的要件を満たすとの主張については争う。

本件特例の適用については、同条三項において、「確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨その他大蔵省令で定める事項の記載がある場合に限り、適用する。」と規定されており、同条四項は、「税務署長は、確定申告書の提出がなかった場合又は前項の記載がない確定申告書の提出があった場合においても、その提出がなかったこと又はその記載がなかったことについてやむを得ない事情があると認めるときは、第二項の規定を適用することができる。」と規定している。

したがって、本件特例の適用を受けようとする納税者は、その提出する確定申告書に本件特例の適用を受ける旨(具体的には、確定申告書裏面の「特例適用条文」欄に「所得税法六四条二項」と)記載しなければならないのであり、右記載がない場合には、納税者が、その記載がなかったことについて、やむを得ない事情があることを立証しない限り、本件特例の適用は認められない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因事実及び抗弁1(一)(総所得金額)の各事実については、当事者間に争いがない。

二  分離長期譲渡所得の金額について

1  抗弁1(二)(分離長期譲渡所得の金額)の事実中、原告が昭和六三年三月二三日河村ビルに対し、本件土地建物を譲渡し、同日手付金として一〇〇〇万円を受領したこと、同年四月五日に引渡し及び所有権移転登記手続を了したこと、同年一月一日現在における原告の本件土地建物の所有期間は、本件土地については五年、本件建物については一〇年をそれぞれ超えるものであり、それにより生ずる所得はいわゆる分離長期譲渡所得に該当すること、本件土地建物の取得費が七七五万二三二二円であること、本件土地建物の譲渡に要した費用が二七〇万円であることの各事実は当事者間に争いがない。

2  本件土地建物の売買代金額について

(一)  右1の事実の外、次の各事実は当事者間に争いがない。

(1) 本件土地建物の売買契約に際しては、いずれも売主を原告、買主を河村ビルとし、作成日付が昭和六三年三月二三日とされている点では共通するが、代金額を一億一五〇〇万円とするもの(乙第三号証の不動産売買契約書。以下「A契約書」という。)及び代金額を九〇〇〇万円とするもの(乙第五号証及び甲第二一号証の不動産売買契約書。以下「B契約書」という。)の二種類の契約書が存在すること

(2)原告が河村ビルに対して同日付けで、金額一〇〇〇万円(乙第四号証の一)、同年四月五日付で金額八〇〇〇万円(同号証の二)及び金額二五〇〇万円(同号証の三)の三通の領収書を発行していること

(3) 昭和六三年三月二三日に手付金一〇〇〇万円が原告に支払われた後の代金決済につき、同年四月五日に残代金の決済が完了していること、その内訳として、原告は、河村ビルから同日額面金五八九〇万一五五二円、同金五八〇万円、同金九七八万九〇四八円の三通の小切手(額面合計金七四四九万〇六〇〇円)を受領したこと、また、原告が本件建物の賃借人から預かっていた敷金(金一八三万四四〇〇円)及び昭和六三年四月分の家賃(金五二万五〇〇〇円)の合計金二三五万九四〇〇円並びに同年一月一日以後三月三一日までの分の固定資産税八万九〇〇〇円は、原告が河村ビルに支払う義務があったところ、相殺勘定がなされたこと、よって、原告が受領した本件土地建物の代金は、前記手付金、右小切手及び相殺勘定によるものを除くと、金三〇六万一〇〇〇円(原告主張)が金二八〇六万一〇〇〇円(被告主張)かのいずれかとなること

(二)  右事実に加え、証人野中昌弘の証言(野中証言)、原告本人尋問の結果、いずれも成立に争いのない乙第二号証、六号証、七号証、九号証、一一号証、二六号証及び二七号証、いずれも原本の存在及び成立につき当事者間に争いがない乙第三号証、四号証の一ないし三、五号証、一二号証ないし一四号証、一八号証ないし二一号証及び二五号証、野中証言及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨により真正に成立したものであることが認められる甲第二一号証によれば、次の各事実が認められる。

(1) A契約書(乙第三号証)は、本件に関する税務調査の反面調査に訪れた前記野中昌弘に対し、河村が提示したものの写であり、これには、原告の署名押印に加え、買主である河村ビルの記名及び同社の代表取締役印の押印があり、また、両名の印により、契約の他方当事者である原告が保管しているべき他の一通との契印がされ、かつ、金一〇万円の収入印紙が貼付されていること(ただし、印紙の消印は、河村ビルの代表印のみによりされている。)

(2) 他方、B契約書の内、乙第五号証は河村ビルがA契約書とともに保管していたもので、(1)の税務調査の機会に提示されたものの写であるが、河村ビルの記名押印及び同社の印による契印並びに収入印紙の貼付をいずれも欠いていること、また、B契約書の内、原告が保管していたものである甲第二一号証には、河村ビルの記名及び押印(ただしいわゆる社判といわれる社名のみの角印によるもの)は存在するが、同印による契印及び印紙の添付はされていないこと

(3) 原告は、税務調査の段階では、(1)のとおり河村から事情聴取をしてA契約書の存在を知った野中から、右甲第二一号証のB契約書のほかにA契約書があるのではないかと問いただされたが、これに対してそのようなものは絶対にないと答えていたこと

(4) 河村ビルの会計帳簿では、昭和六三年三月二三日、手付金として、現金一〇〇〇万円を原告に支払ったとの処理がなされ、さらに、右手付金を除く本件売買代金の残金は、同年四月五日、東京抵当信用株式会社から一億一〇〇〇万円を借入れ、それを浜松信用金庫追分支店において原告の要請に基づき保証小切手三通額面総額七四四九万〇六〇〇円及び本件建物入居者への保証金返済債務、固定資産税等を相殺した後の現金二八〇六万一〇〇〇円を同店河村ビル名義普通預金口座から引出し、原告に支払った旨の処理がなされ、河村ビルの浜松信用金庫追分支店の普通預金通帳にもこれを裏付ける記載があること

また、本件土地建物については、同年四月五日に河村ビルへの所有権移転登記がなされるのと同時に、右東京抵当信用株式会社に対し、河村ビルを債務者とする債権額八〇〇〇万円の抵当権及び極度額三六〇〇万円の根抵当権の各設定登記がなされていること

(5) 原告は、昭和六三年三月二三日、河村ビルから本件売買の手付金として金一〇〇〇万円を受領し、この中から浜松市役所に固定資産税、住民税として金六七万円を支払い、また、原告の手持金は通常四、五万円程度であって、この時点での原告の手持金の残りは、多くて九三八万円程度と推認されること、原告は、同年四月五日に河村ビルから受領した前記三通の小切手のうち、額面金五八九〇万一五五二円の小切手については、ファーストクレジットに、また、額面金五八〇万の小切手については、ユニエンタープライズに、それぞれ即日交付して債務の弁済に充て、額面金九七八万九〇四八円の小切手については自宅に持ち帰ったが、同月一二日まで換金しなかたこと、ところが、原告は他方で、同月五日に原告が依頼した仲介業者の新栄開発に金二七〇万円の仲介手数料を支払い、同月八日に有限会社ライフに金九〇万円を支払っており、この時点での手持金は、原告の主張する四月五日の現金支払額が金三〇六万一〇〇〇円であるとすれば、八八四万円位しかなかったことになるはずであるのに、同年四月一一日には平沼に債務弁済として金一五〇〇〇万円を現金で支払っていること

(6) 原告は、本件売買前に地元の情報誌「浜松情報」の記者から本件土地建物について取材を受け、その結果、「浜松情報」の昭和六三年四月一日号に本件土地建物の紹介記事が掲載されたこと、同記事において売買価格は一億二〇〇〇万円とされていること

(三)  (一)及び(二)に認定した以上の事実を総合すれば、本件土地建物の譲渡代金額は、A契約書のとおり一億一五〇〇万円であったと優に認められる。

(四)  これに対して、原告は、右認定を妨げるべき事情として、

〈1〉 代金額を一億一五〇〇万円とするA契約書は、河村が銀行借入れを有利に進めるためと称してあらかじめ同人が用意していた契約書用紙に原告の署名押印を求めたものであり、他方、原告には真実の代金額を偽る動機は存しない、

〈2〉 本件売買契約に関し、河村ビルが支払った仲介手数料二三〇万円は、代金額を金一億一五〇〇万円とした場合、宅地建物取引業者が受けることができる報酬としてはあまりにも安く、また、原告が仲介業者の新栄開発に支払った仲介手数料は金二七〇万円(前記(二)(5))であるところ、本件売買の代金額を金九〇〇〇万円とすれば、その三パーセントに相当し、このことは本件売買契約における代金額が金九〇〇〇万円であったことを裏付けている、

〈3〉 前記(二)(5)の平沼に対する一五〇〇万円の弁済資金は、手持資金で足りない分については、原告の妻の母親からの借入れ(金額については正確な記憶がない)によって調達し、この借入金は同年末に原告の兄正治から八〇〇万円の借入れをして返済している、金を借りてまで弁済した理由は、返済期が迫っていて、これを徒過するとさらに半年分の利息を先払いする必要があったからである、

旨主張する。

(五)  しかしながら

(1) 主張〈1〉については、原告本人が右主張に沿う供述をしているのみで、他にこれを認めるに足りる証拠はなく、原告本人の右供述も、A契約書に署名押印したのは「(静岡地裁浜松支部の)玄関のところで現金その他最終的な受渡しをした」昭和六三年四月五日であり、河村から、銀行から融資を受けるためとの説明を受けてA契約書の作成に応じたというのであるが、この説明を前提とすると、A契約書が完成したのは売買代金の最終決済が行われたのと同時であることになるところ、前記(二)(4)で認定のとおり、河村ビルは右契約書作成前に既に一億一〇〇〇万円の融資を受けて決済資金を調達しているのであるから、原告の右説明とは整合せず、B契約書の作成経過についての原告の供述が曖昧なことと併せて、この点に関する原告の供述の信用性は乏しく、採用することはできない。

そして、一般的な可能性としては、金融機関から多額の融資を受けやすくするために、物件の取得価額を高額にしておくことも考えられるものの、本件においては河村ビル側がそのような意図を有していたと認め得る証拠は全くない。

(2) また、主張〈2〉についても、成立に争いのない乙第三一号証、同号証により原本の存在及び成立が認められる乙第二九号証によれば、河村ビルは、本件売買の手数料として株式会社三栄重建に二三〇万円を支払っていることが認められ、これは、代金額を金一億一五〇〇万円とすれば二パーセントにしかならない金額ではあるが、右各号証及び原本の存在及び成立につき争いのない同第三〇号証によれば、株式会社三栄重建は、宅地建物取引業の免許もなく、同社の事業目的にも宅地建物取引業は掲げていない会社であるから、宅地建物取引業者が受けるべき所定の報酬額を本来請求できるものではないこと、同社の代表取締役三川俊徳は、仲介手数料受領について、同社本来の業務である建設工事等の受注のため河村ビルに頻繁に出入りしていたことから、河村から不動産関係の雑用を頼まれることが多く、その仕事に対する報酬は、あったり、なかったりしており、その金額についても河村が一方的に決めており、したがって、むしろ、二三〇万円というまとまった金額を受領できたことに満足していたことなどの事情が認められ、これらの事情に照らせば、必ずしも右手数料の金額が不自然に低廉であるとはいえない。

また、宅地建物取引業法において、宅建業者に対する媒介報酬額については、その最高限度額が建設省告示により売買代金額が四〇〇万円以上の場合には、売買代金額の三パーセントに六万円を加えた額と定められているが、これはあくまでも報酬額の上限を定めたものであって、具体的報酬額は、当該業者の貢献度に応じて右限度内において定められるものであるから、原告が本件土地建物売却の仲介を委託した新栄開発に対し、仲介手数料として二七〇万円を支払ったことをもって、ただちにその三分の一〇〇倍の金額である九〇〇〇万円が売買代金額であったと推認すべき事情とすることはできない。

(3) さらに、主張〈3〉についても、そもそも、四月一一日に行った平沼に対する借入金の弁済につき、利息の支払いを免れるために弁済を急ぐ必要があり、そのための手元資金が不足するのだとしても、身内から金を借りるまでもなく、手元にあったはずの額面金九七八万九〇四八円の小切手を同日までに換金すればこと足りるのであるから(原告は、本人尋問においてこれを妨げる特段の事情の有無を尋ねられたが、なんら説明をなしえなかった。)、あえてこれをしなかったこと自体、不自然といわざるを得ない。

また、この点を措くとしても、原告は、前記(二)(5)の平沼に対して行った一五〇〇万円の弁済の資金の調達方について、本人尋問においては、一旦、同年四月八日ころ、原告の実兄竹内正治から八〇〇万円くらい借入れをした旨供述し、併せて右借入れに係る借用証も作成してある旨弁明したが、その後の平成七年三月二八日付準備書面において、原告は、右供述を覆して主張〈3〉のとおりの主張をするに至り、本人尋問の際の供述は記憶の甦らないまま述べたものであって、右主張と本人尋問で述べた兄からの借入金との関係については、右原告の妻の母親からの借入金の弁済原資として、昭和六三年末に兄正治から借入れをして返済したと説明し、右兄正治から借入れの事実を証するものとして借用証書及び預金通帳等(甲第一六号証ないし第二〇号証)を提出している。ところが、右各書証の内容は、兄正治から平成元年一二月一一日に一〇〇万円、同月二六日に七〇〇万円を借り入れたというものであって、右借入金を原資として妻の母親に昭和六三年末に返済したとする原告の主張は、自らよって立つ証拠とも整合せず、さらに、右甲第一九号証、二〇号証及び成立に争いのない乙第二八号証によれば、兄正治から平成元年一二月二六日に七〇〇万円を借り入れるに際して原告が受領した自己宛小切手三通のうち、原告が自ら取り立てたのは額面一〇〇万円のもの一通だけで、その余の二通は別の決済に当てられたものと認められるから、いずれにしても原告の主張は根拠のないものといわざるを得ない。

(六)  その他、前記(三)の認定を覆すに足りる証拠はない。

三  所得税法六四条二項所定の保証債務の特例の適用(再抗弁)について

1  ファーストクレジットに対する弁済について

(一)  原告が、昭和六〇年一二月一六日に平沼から本件土地建物を担保として四三〇〇万円(旧債務)を借り入れたこと、その後、原告が昭和六一年五月二二日にファーストクレジットから本件土地建物を担保として原告の二女である竹内伸江名義で四八〇〇万円(新債務)を借り入れたこと、新債務の借入名義人を竹内伸江としたのは、新債務の返済方法が二五年の長期分割払いであり、原告の年齢(高齢)から原告名義では借入れができなかったためであり、竹内伸江は当時学生で、原告が扶養しており、同人は形式上の債務者に過ぎないこと、原告が、昭和六三年四月五日、本件土地建物の売却代金をもって竹内伸江を債務者とする債務及びその利息等の合計五八九〇万一五五二円をファーストクレジットに弁済したこと、さかえが静岡地方裁判所浜松支部において昭和六二年三月二三日に破産宣告を受けたことの各事実は当事者間に争いがない。

(二)  前記乙第六号証、第七号証、成立に争いのない甲第九号証の二、乙第一〇号証、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、原告は昭和六〇年七月ないし八月ころにはさかえの代表取締役に就任していたこと、旧債務は、原告がさかえの資金繰りのために平沼から融資を受けようとしたところ、同人から、さかえは資力がないから貸せないとして、原告自身が債務者として本件土地建物に根抵当権を設定して原告名義で借り入れたものであること、新債務の借入れは旧債務の弁済のためになされたものであること、さかえの会計帳簿には昭和六〇年一二月一七日付でさかえが原告から二七〇〇万円を借り入れた旨の記載があることが窺われることの各事実が認められる。

右の事実によれば、平沼は、原告の信用に着目して融資をしたもので、さかえに融資したとの認識は有していなかったことは明らかであり、旧債務の債務者はあくまで原告であったというほかはない。これを費消したのはさかえであるとしても、そのことにより旧債務が保証債務となるいわれはなく、したがって、新債務についてもまた保証債務と評すべき根拠となるものではない。

よって、保証債務の存在を前提とする本件特例の適用の余地はない。

2  ユニエンタープライズに対する弁済

(一)  原告が昭和六一年六月二四日、さかえのユニエンタープライズからの五〇〇万円の借入れに際し、その連帯保証人として本件土地建物を担保とする根抵当権設定契約を締結したこと、原告が、本件土地建物の譲渡代金をもって、昭和六二年四月五日、ユニエンタープライズに対し右借入金元利合計五八〇万円を弁済したことは、当事者間に争いがない。

(二)  前記乙第一〇号証、成立に争いのない甲第九号証の九、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証の四及び五によれば、さかえは、昭和五九年五月期事業年度(昭和五八年六月一日から昭和五九年五月三一日までの事業年度)以降昭和六一年五月期事業年度まで毎期、多額の欠損金をかかえ債務超過の状態であったこと、特に昭和六一年五月期事業年度においては、売上金額が前事業年度の約一億三〇〇〇万円から約四七〇〇万円に激減して、当期末処理損失五七〇七万〇五八八円を計上し、資産八二八四万一七八四円に対して負債一億三四九一万二三七二円であり、債務超過額は五二〇七万〇五八八円となっていたことが認められ、右保証当時のさかえの資産状態が悪く、返済能力がない状態であったことは明らかである。

(三)  成立に争いのない甲第九号証の八、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、さかえの実質的会社経営は前代表取締役の村田栄助が牛耳っていたことが窺われるものの、原告は、昭和四八年八月まで、浜松市内の庄田鉄工株式会社の取締役総務部長を勤めた後、有限会社サンライズを設立して自ら貸金業を営んでいたものであり、また、前記1及び後記4のとおり、本件保証の前後にも、さかえの代表取締役として、その資金繰りのために自ら平沼と交渉をし、同人から、「さかえには資力がないから貸せない」旨言われると、自己名義で融資を受けて、これをさかえに貸し付けるなどしているのであり、かかる事実からすると、原告は会社経営につき素人というわけではなく、また、さかえの資金繰りについても相当程度関与していたのであって、これらの事情に照らせば、右(二)のようなさかえの経営状態については十分に認識していたものと推認される。

したがって、ユニエンタープライズに対する債務について、原告は、主債務者であるさかえが債務超過の状態にあり、弁済能力がないこと、すなわち保証人として求償権行使による回収が期待できないことを知りながら、あえて保証したものと認められるのであって、このような原告の債務保証は、実質的には債務の引受け、あるいは、さかえに対して無償で利益を付与したとみるべきであるから、本件特例の適用はないものと解するのが相当である。

3  ライフに対する弁済について

サンライズが昭和五五年七月二五日にライフから借入れを行ったこと、当時原告がサンライズの代表取締役であったこと、原告が昭和六三年四月八日にライフに右借入れに係る弁済として九〇万円を支払ったことは当事者間に争いがない。

しかしながら、成立の争いのない乙第一三号証によれば、ライフは右弁済につきサンライズを名宛人として領収書である「ご計算書並残高確認書」を発行していることが認められるのであり、その他サンライズの右ライフからの借入れ債務につき原告が保証したことを認めるに足りる証拠はない。

4  平沼に対する弁済について

原告が昭和六一年一月一四日に平沼から一一〇〇万円を借り入れたこと、原告が本件土地建物の譲渡代金で、昭和六三年四月一一日、同人に対し右の債務及びその利息の合計一五〇〇万円を弁済したことは当事者間に争いがなく、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、右借入金は、さかえが浜松市中沢町に開業した「レストラン禅」(ただし、経営主体は前記村田栄助の妻が代表者をつとめる有限会社春夏秋冬)の開業資金に充てられたことが認められる。

しかしながら、この債務は、原告の主張するところによっても、原告が昭和六一年一月一四日に、平沼から自ら債務者として一一〇〇万円を借り入れたものであって、前記1認定のとおり、平沼の認識においても原告が債務者であると認められるから、借入金をさかえが費消したとしても、そのことにより原告が保証人に転化するものではない。

よって、右弁済は原告自らの債務の弁済であり、保証債務の存在を要件とする本件特例の適用の余地はない。

5  小括

以上によれば、原告が本件土地建物の譲渡代金によってした各債務の弁済は、いずれも所得税法六四条二項所定の保証債務の特例の適用の要件を欠くものであるから、これらの弁済金額につき、原告に所得がなかったものとすることはできず、その余の点について判断するまでもなく、再抗弁は理由がない。

そうすると、原告の本件土地建物譲渡に係る分離長期譲渡所得金額は、原告が受領した代金額一億一五〇〇万円から、前記の争いのない本件土地建物の取得費七七五万二三二二円及び本件土地建物の譲渡に要した費用二七〇万円を減じた金一億〇四五四万七六七八円である。

四  本件各処分の適法性について

1  更正処分について

(一)  前記のとおり、原告の係争年分の総所得金額については争いがなく、課税総所得金額(二二〇万四〇〇〇円)については、原告は明らかに争わないので自白したものとみなす。

(二)  課税長期譲渡所得金額は、前記三5認定の分離長期譲渡所得の金額一億〇四五四万七六七八円から長期譲渡所得の特別控除額一〇〇万円(措置法三一条四項)を控除し、一〇〇〇円未満を切捨てた額である一億〇三五四万七〇〇〇円となる。

(三)  これによると、納付すべき税額は、次の(1)及び(2)の合計額から配当控除四万九四四七円(所得税法九二条一項)、源泉徴収税額一七万〇七七六円を控除し、一〇〇円未満を切捨てた金額である二四二八万四三〇〇円となる。

(1) 課税総所得金額に対する所得税の額 二二万〇四〇〇円

右金額は、前記(一)の金額に所得税法八九条一項(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)に基づき計算した金額。

(2) 課税長期譲渡所得金額に対する所得税の額 二四二八万四二〇〇円

右金額は、前記(二)の金額に措置法三一条一項(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの)に基づき計算した金額。

(四)  以上によれば、総所得金額三六二万九六八五円、分離長期譲渡所得金額一億〇三四一万四四〇三円、納付すべき税額二四二四万四七〇〇円としてなされた本件更正処分は、右に認定した総所得金額三六二万九六八五円、分離長期譲渡所得金額一億〇四五四万七六七八円、納付すべき税額二四二八万四三〇〇円の範囲内でされたものであるから、適法である。

2  各賦課決定の適法性について

(一)  重加算税について

右のとおり本件更正処分は適法であり、かつ、前記二のとおり、原告は、本件土地建物の譲渡価額は一億一五〇〇万円であるにもかかわらず、その譲渡価額を九〇〇〇万円とした内容虚偽のB契約書を作成したものであり、原告が確定申告において右九〇〇〇万円を分離課税の長期譲渡所得の収入金額として申告したことは当事者間に争いがないから、これにより原告は係争年分の分離長期譲渡所得の収入金額から二五〇〇万円を過少に申告したものであって、原告の行為は、通則法六八条一項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装しにところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。

本件賦課決定は、同項の規定に基づき、次の(1)の金額から(2)の金額を減じた額(六六四万一一〇〇円)から、通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨てた六六四万円を、その仮装隠蔽したところに基づき納税申告書を提出していたことにより過少に申告された部分に対応する税額として、過少申告加算税に代え一〇〇分の三五の割合を乗じて計算した金額二三二万四〇〇〇円を賦課決定したものであるから、適法である。

(1) 本件更正処分により新たに納付すべきこととなった税額 二四三一万〇四〇〇円

原告の本件更正処分により納付すべき税額二四二四万四七〇〇円に平成元年二月一三日付けの確定申告による還付金に相当する金額六万五七七一円を加算した金額である(通則法一一八条二項の規定により一万円未満の端数を切り捨て)。

(2) 仮装したところを前提として計算した税額 一七六六万九三〇〇円

別表記載の本件更正に係る分離長期譲渡所得金額から、隠蔽された二五〇〇万円を減じた七八四一万四〇〇〇円を課税長期譲渡所得金額として、前記1(三)と同様に算出した税額

(二)  過少申告加算税について

また、同様に本件更正処分は適法であり、更正により納付すべき税額の基礎となった事実のうち、重加算税の賦課決定の基礎とされた事実以外の事実(前記本件特例の適用の余地がないこと等)が、更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法六五条四項に規定する正当な理由があるとも認められない。

原告が納付すべき過少申告加算税の額は、通則法六八条一項の規定に基づき、本件更正処分により新たに納付すべきこととなった前記税額二四三一万〇四〇〇円のうち重加算税の対象となる税額六六四万一一〇〇円(前記(一))を控除した後の税額一七六六万円(通則法一一八条三項の規定により一万円未満の端数を切り捨て後のもの)に一〇〇分の一〇の割合を乗じて計算した金額一七六万六〇〇〇円と、同条二項の規定に基づき、右一七六六万円のうち五〇万円を超える部分の税額一七一六万円に一〇〇分の五の割合を乗じて計算した金額八五万八〇〇〇円の合計額二六二万四〇〇〇円を賦課決定したものであるから、本件賦課決定処分は適法である。

五  結論

以上によれば、原告の本件各請求にはいずれも理由がないから棄却することとし、行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉原耕平 裁判官 西島幸夫 裁判官 前田巌)

別表

本件課税処分等の経緯

〈省略〉

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